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学院長にきく

学院長

「愚直であれ!」研究を通して生き方を学ぶ。

一貫教育、志の教育、自校教育を推進。
研究生活50年を振り返り、これからの追手門学院を語る。

追手門学院の竜田邦明学院長は、有機化学の重要な分野である天然物合成において世界を牽引してきた化学者です。その研究生活は、一から全合成した生理活性物質が101種類に上る(うち93種が世界初)という輝かしい業績に彩られています。科学への夢と志を育んだルーツは追手門学院の小・中・高の教育にあったという竜田学院長に、50年間の研究や今後の追手門学院について語っていただきます。

良い先生との出会いが人生を左右する

◆竜田学院長は小学校から高校まで、追手門学院で12年間の学校生活を送られました。
まず、その思い出からお聞かせください。

追手門学院で小・中・高の時代を過ごしたことが、私の人生を変えたと言っても過言ではありません。実は12年間、皆勤で通し、無遅刻無欠席でした。それは、何よりも学校へ行って遊ぶのが楽しくて仕方がなかったからです。

追手門学院には、良い先生がいっぱいいらっしゃいました。例えば小学校では、クモやハチの研究をしている先生がいつも顕微鏡で観察し、黒インクでスケッチしている姿にあこがれました。当時は青インクが一般的でしたから、鮮やかな黒インクに強烈な印象を受けたのです。僕らもいずれやりたいなあと思いましたし、実際に昆虫などを持っていくと、顕微鏡で見せてもらいました。生物や科学の世界への興味が自然に育まれたと思います。

中学では、野球部と科学部の活動が楽しかったですね。いろんな実験をしましたが、その感動が私の研究生活の原点になっています。感動は単なる知識にとどまらず、知恵につながります。覚えた知識を基に自分で考え、自分なりに咀嚼して新しく外に出していくものが知恵です。知恵は感動することから生まれます。今の先生にも、生徒をわくわくさせる指導をしていただきたいのです。

◆高校時代のこと、そして化学を専攻された経緯について。

高校では、科学部の活動も続けながら、ハンドボールに熱中しました。授業でよかったと思うことは、当時だからこそできたのでしょうが、教科書を使わない先生が多かったことです。自分の得意な分野を楽しそうにお話しになるから、臨場感にあふれ、聴いている方も楽しい。私は、古文も漢文も英語も好きになりました。古文の時間には、先生が黒板に草書や行書など昔の字をお書きになり、私はその美しさに惚れて、ノートにそっくり写したものです。

高校3年になり、遺伝子や生化学に興味があることから、担任の先生に医学部への進学を勧められました。当時は特待生制度がありましたが、特待生で国立大学を受験しなかったのは私だけです。なぜなら、私立大学には創立者がいて建学の精神があることが重要であり、それが魅力だったからです。私が小学校5年生の時に亡くなった父親は外国の教育に造詣が深く、常に「これからはプライベートの時代だ」と言い続けており、それがいつしか私自身の考えになっていました。特に慶應義塾大学医学部には、分子生物学の先生がいらっしゃったということもあります。

進学後、その先生から「日本では、まだ生化学の研究は難しいので、将来のために基礎となる有機化学を勉強しておいた方がよい」というアドバイスを受け、工学部の梅澤純夫先生を紹介され、3カ月で転部しました。そのおかげで、半世紀にわたる研究生活を送ることができたのですから、良き師との出会いや助言がいかに大切であるかを改めて感じます。

格闘技がアートになる研究とは?

◆竜田先生は、天然物合成の分野の世界的第一人者です。4大抗生物質をはじめ、全合成した生理活性物質は101種類(うち93種が世界初)に及びます。研究者に必要な心構えや基本的な研究方針とは?

私は人間に対しては気が短いけれど、化合物に対しては気が長いのです(笑)。全合成に至るまで最も長くかかったもので15年。12年かかったものもあります。趣味はいつでもあきらめられますが、研究はあきらめられないのです。私は今まで一度もあきらめたことがありません。常時、十数件の研究テーマを走らせてきました。

研究でいちばん大事なことは、テーマを決めることです。あの有名な先生がやっているからと、同じようなテーマを追いかける人が多いのですが、誰かのまねをしても絶対に評価されません。

もう一つ重要な点は、全工程の1カ所でよいから、あっと言わせるような華の部分、アートの部分を入れられるかどうかです。例えば、50工程の全部にオリジナリティーはいらない。1カ所でも、あの人の合成だと分かる部分がほしい。ゴッホやセザンヌ、ピカソなどの作品は、初期の習作は別にして、見た瞬間に誰が画いたか一目瞭然でしょう。有機合成化学もその域に達しないといけません。

竜田先生
竜田先生

◆研究の楽しさや難しさについて。

全合成を目指して美しいルート(合成経路)を考えているときは、まさに芸術です。ところが、実際に研究を始めたらうまくいかないことばかりで、いわば格闘技です。天然物に翻弄される状態が長く続きます。ところが、ある瞬間から相手の性質が分かり、攻守ところを変えて攻めに転ずることになるのです。

相手は人間ではないから、うそをつきません。私はいつも「愚直であれ」と言っています。ばか正直に、ずっと問いかけ、問いつめていると、それこそ十何年も格闘していると、相手の性格が見えてきます。ずっと「ノー、ノー」と言い続けていたのが、ちょっと「イエス」みたいな反応が出てくる。そこで、一気に攻め込んでいくと、こちらの思い通り動き始め、疑問が解ける。その瞬間が楽しい。その転換期まで我慢できるかどうかです。そうして完成したものは、また芸術になるのです。

◆学生の指導面、教育面で重視なさってきたことは?

私は、学生には厳しい指導をしてきました。まず、時間を無駄にしないこと。時間はお金で買えません。私の研究室では、一緒に食事に行くのを禁じていました。なぜかというと、同じ時間に行くということは、どちらかが時間を融通しているわけで、貴重な時間を損するからです。トイレに行く際も、「行って帰ってくるまでに反応が進んでいることを考慮して行け」と。

実験にあたっては、「条件の選択肢をできるだけ多く挙げて、自分にとって最善のものを選べ」と言ってきました。「一般に最高のものであっても、君にとって最善かどうか」ということです。

そして、愚直なまでの生き方を貫くことです。私は、研究を通して人生の生き方を学んでほしいと思って指導してきました。

学生と竜田先生
学生と竜田先生

「志学」の良さを活かして一貫教育を強化

◆世界をリードしてきた科学者として、これから力を入れたいことやご希望は?

昔は、サイエンスというと夢の代名詞でした。近年は理系離れが問題になっていますが、科学者は広く一般の人に、サイエンスの重要性と有用性をきっちり説明する使命があると思います。中学・高校でも、実験の面白さを感じさせる授業をする必要があります。実験をしないと、サイエンスの面白さが伝わりません。

私の使命は、ケミストリー(化学)の重要性と有用性を一般の人や若い人に伝えることです。できるだけ市民講座や学校の実験にかかわり、その面白さを伝えるとともに、皆さんの考えと化学が乖離しないようにつなぎ役をすることが、これからの人生の務めだと思っています。私のやってきた天然物の全合成や創薬の化学は、科学の面白さや楽しさを感じてもらうヒントになるでしょう。

高校の時間割を見ると、「学」が付く科目は化学と数学だけ。物理や生物は、学が付かない。その化学と数学を嫌いな人が多い。ところが、もう一つ「ガク」の付く科目がある。それは音楽。音楽が音を楽しむように、化学は変化を楽しむものだから、「化楽」にしたらいいと提案しているのです(笑)。実験は、変化が楽しいのです。同じく数学も、数の理論をいかに楽しむかが大事ですから、「数楽」としたらどうでしょう。

追手門学院小学校での実験講演.
追手門学院小学校での実験講演

◆学院長として、今後の追手門学院のあり方や教育方針についてお話しください。

追手門学院は幼稚園から大学・大学院までそろった総合学園です。一貫教育の良さを見直し、それを強化していきたいと考えています。例えば、追手門学院大学に進学する人が、幼稚園からの人が10人、小学校で2、30人になり、中・高で50人ほどに増えるといった具合に、一貫教育でコアになる人が増えてこないといけません。

その試金石として、2011年4月から、大手前の高校1年生を対象に追手門コースを設置しました。追手門学院大学に進む人のためのコースです。受験勉強ではなく、基礎をみっちり教えると同時に、社会で役立つ実学や帝王学も教えます。クラブ活動も一生懸命やり、何か自分の才能を見つけて、それに集中してもらいます。

私が追手門学院に魅力を感じるのは、品格と言ってよいのかもしれませんが、ある種の品のよさが伝統的に受け継がれているからです。別に家庭が裕福だという意味ではなく、保護者の方たちが家族で共有するものや共に過ごす時間を大切にしていらっしゃるのを感じます。

また、学校に誇りをもってもらうために、自校愛を育む教育も進めています。私立学校とは志を立てる学校、「志立学校」であり、私学は「志学」だと考えています。先に申しましたように、創立者がいて、建学の精神があり、それに基づいて志を立てることが大事です。

今後、一貫教育、志の教育、自校教育を三本柱にして、これまでに培われた伝統を受け継ぎつつ、その上に新しい価値や生命を吹き込んでいきたいと考えています。

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